SV40発現レトロウイルスを用いた初代培養細胞の不死化
A. HEK293T細胞の準備
(1) -135℃に保存してある保存してあるHEK293T細胞を10cmディッシュ1枚に起こす。
(2) コンフルエントに達したら、10cmディッシュ4枚 → 15枚と継代する。継代間隔は中一日。そのうち12枚はSV40導入のため、3枚はVenus導入 (遺伝子導入効率の指標) のために用いる。一枚あたり3 × 106 細胞/10cmディッシュになるように15枚に細胞を播種する。翌日、トランスフェクションに用いる。
B-1. SV40発現レトロウイルスの作成
(1) 15 mlチューブに血清の入っていないDMEM培地 (液体培地そのまま) (ナカライ: 08459-06) を9.6 ml (800 µl × 12) を移す。
(2) (1)の培地にpolyethylenimine (PEI) を216 µl (18 µl × 12) を加える。
(3) 室温で5分間放置する。
(4) DNA溶液を加える。偏ったパッケージングにならないよう、DNA溶液をあらかじめ混合しておき、一度にPEI-DMEM混合溶液に加える。
pCL10A1: 36 µg (3 µg × 12)
pSV40-Retro: 36 µg (3 µg × 12)
(5) 室温で15分間放置する。この間に、培養細胞の状態を確認。50%コンフルエント程度が理想。
(6) このリポフェクション溶液を、各ディッシュに800 µlずつ側面からゆっくりと加えていく。
(7) 100回程度、ディッシュを振り、よく混ぜる。
(8) 48時間培養。
B-2. Venus発現レトロウイルスの作成
(1) 15 mlチューブに血清の入っていないDMEM培地 (液体培地そのまま) 2.4ml (800 µl × 3) を移す。
(2) (1)の培地にPEIを54 µl (18 µl × 3)を加える。
(3) 室温で5分間放置する。
(4) DNA溶液を加える。偏ったパッケージングにならないよう、DNA溶液をあらかじめ混合しておき、一度にPEI-DMEM混合溶液に加える。
pCL10A1: 9 µg (3 µg × 3)
pMXs-Venus: 9 µg (3 µg × 3)
(5) 室温で15分間放置する。この間に、培養細胞の状態を確認。50%コンフルエント程度が理想。
(6) このリポフェクション溶液を、各ディッシュに800 µlずつ側面からゆっくりと加えていく。
(7) 100回程度、ディッシュを振り、よく混ぜる。
(8) 48時間培養。
ウイルス回収用培地への交換 (B-1, B-2共通)
48時間後に培地交換を行う。一度に全てのディッシュの培地を吸うと乾燥してしまうため、3枚ずつ行う。
(9) 手袋を装着し、DMEM培地 (10% FCS、抗生物質含有) (以下DMEM-FCS) を35 ml (3本分)をチューブに移す。培地の作製方法については「基本編 DMEM培地作成法」を参照すること。
(10) 培地にホルスコリン溶液 (※1) 35 µl (3本分) 加える。
(11) ディッシュを傾けながら、中の培地をピペッターでゆっくり吸い、廃液用に用意した容器に捨てる (※2)。
(12) ピペッターの液体を出す出力をゼロにする。続けてホルスコリンを加えた新しい培地を10.5 mlずつ、壁を伝わせゆっくりと加えていく。
(13) (9)−(12)を繰り返す。
(14) さらに48時間培養。
(※1) ホルスコリン溶液:ホルスコリン (和光: 063-02193) 25 mgをDMSO (SIGMA: D2650 Hybri-Max) 6 mlに溶解。1/1000溶液として、培養液に加える。CMVプロモーターの活性を高めて、ウイルスのパッケージング効率を上昇させる。
(※2) 廃液は塩素処理もしくはオートクレーブ処理によりウイルスの不活化を行う。
C. ウイルス液の回収・保存
(1) 培地がコンタミしていないか確認し、ディッシュ3枚分の培地を1本の50 mlチューブにまとめる (SV40 12枚から4本、Venus 3枚から1本)。培地はコンタミしたように黄色になる。
(2) ディッシュにPBSを10 ml加え、蛍光顕微鏡でウイルス産生を確認する。pMXs-Venusを入れたものではFITC用フィルターで蛍光が観察される。
(3) チューブから25 mlシリンジで培地を吸い、0.45 µm Minisart (ザルトリウス: 17598) を通し、培地を新しい50 mlチューブに移す。シリンジと0.45 µm Minisartは2本分透過したら、新しいものに変える。
(4) 50 mlチューブにウイルス濃縮液 (※3)を10 mlずつ加える。PEGが沈みやすいので、ウイルス濃縮液は加える前、また、加えた後、よく混ぜる。
(5) 4℃で一晩保存。時々混ぜる。
(6) 冷却遠心機で3,500 rpm、1時間遠心。
(7) 上清を捨てる。上清は不活化処理する。ウイルスの凍結保存を行う場合 → (11)へ。
(8) ペレットに1 mlのDMEM-FCSを加えて懸濁。
(9) 懸濁液を1本のチューブに集め (SV40 4 ml、Venus 1 ml) 、さらにDMEM-FCSを加え、SV40は6ml, Venusは1.5mlにフィルアップ。
(10) SV40は6 µlのポリブレン (4 mg/ml) を加える。Venusは1.5 ulのポリブレン溶液を加える。感染に使用。
オプション(ウイルスを凍結保存する場合)
(11) 終濃度が5%となるようにDMEM-FCSにDMSOを加え、凍結用培地を5 ml作る (DMSO 250 µlを4.75 mlのDMEM-FCSに加える) 。
(12) (7)で得られたペレットに1 mlずつ保存用培地を加える。ペレットをピペッティングにて溶解。SV40は4 ml、Venusは1 mlの容量になる。
(13) セラムチューブにSV40は0.3 mlずつ、Venusは0.15 mlずつ分注して-80℃フリーザーにて保存 (もしあれば-135℃フリーザーの方が好ましい)。使用時は37℃で解凍し、ターゲット細胞の培養に用いる培地を加えて10倍希釈する。1/1000容のポリンブレンを加えて、標的細胞へ感染。
(※3) ウイルス濃縮液の調製
[1] 320 mlの50% PEG 6000 (ナカライ: 28254-85)を準備する。
[2] 5M NaClを40 ml加える。
[3] 1M HEPES (ナカライ: 17557-94)を20 ml加える。
[4] 500 mlにフィルアップする。
[5] オートクレーブする。
D. ターゲット細胞の準備
(1) 10cmディッシュにて培養していたターゲット細胞の培地をアスピレーターで取り除き、PBSでwash、0.05 %トリプシンを800 µl加え、CO2インキュベーターで5分間静置し、細胞を剥がす。
(2) 血清入り培地を5.2 ml加える。4℃, 1,100 rpmで5分間遠心。
(3) 上清を捨て、1 × 105細胞/mlになるようにペレットを培地に懸濁、希釈する。
(4) 6 wellプレートの各ウェルに1 mlずつ培地を入れておき、細胞懸濁液を1 mlずつ加える。
(5) 100回程度、ディッシュを縦横に振り、よく混ぜる。
E. ターゲット細胞へのウイルス感染
(1) 前日に6 wellプレートに播種したターゲット細胞の培地を除く。ただし、乾燥しやすいので2 wellずつ作業を行う。
(2) ポリンブレンを加えたウイルス溶液を各wellに1.5 mlずつ加える。
(3) wellの1-4番はSV40、5番はVenus、6番は未感染とし、必ずコントロールをとる。
(4) 感染は48時間行う。
(5) 通常のDMEM-FCS培地へ交換。
(6) 抗生物質G418を最終濃度600 µg/mlとなるように加えた培地へ交換。コントロールのwellで細胞が完全に死滅するまで選択を続ける。
(7) コンフルエントになったら10倍希釈して継代する。継代途中の細胞も一部保存しておく。継代していく中で、形態に変化がないかどうか常に注意を払うこと。