略歴のところにも書いているのだが, 私は神戸大学時代の2010年の4月から2011年の3月まで, フランスのソフィア・アンティポリスという所に滞在して研究活動を行っていた. ここではそのときの滞在での経験についていくつか書こうと思う.
さて. 理工系の研究者が研究活動を海外で行う場合,
かなりの割合で滞在先として米国を選択することになるようである.
おそらく滞在先としてフランスを選択する人はかなりの少数派ではないかと思う.
(もちろん, 私の周囲の(理工系)研究者にも若干名フランス滞在経験者がいるし,
そこまで珍しいというほどのことではないのだが)
…なので, せっかくの滞在経験をこういうところに書いておけば,
ひょっとすると誰かの何かの参考になるかも知れないと思い,
こういうページを作ることにした.
(といっても, 書かれている内容は与太話に近いものが多いかも知れない)
ただし, 当たり前だが, ここに書いてあることは私─花原和之─個人の 体験にもとづくものであり, 何ら一般性を保証するものではない. 例えば, お役所関係のあれこれにしても, 時々変更になっているようだし, 場所や相手によっても異なる(ちなみにこれはフランスでは普通らしい). 参考にされる場合にはそのあたりに十分注意していただきたい.
なお, 以下のフランス語の表記ではいわゆるアクセント記号は省略してある. 念のため.
…といっても, たいていの場合, こういう滞在先というのは研究分野とか人のつながりとかで決まるので, 行き先を自分で選べないことのほうが多いとは思う. ただ, 選択肢の中に含まれていて検討の余地があるのなら是非….
分野にもよるが, 理工系の研究者が多く集まるのはやはり米国だろう. 「国際」会議の事実上の標準語である英語(というか米語)が 普通に話されている国であり, そういう意味での「敷居」も低い. それは我々にとってのみならず, 他の国の人にとってもそうなので ──というのは, いろんな意味で「外国語として」英語を身に付けている人は たくさんいるし──, 世界中の研究者が集まっているといっても過言ではない.
しかし, やはり研究者としては人と同じことをしないほうが 何かと面白いことに遭遇できそうである. 米国とは異なる価値観や異なる文化背景の国に滞在すれば, そういった米国組(!?)とは違った見方を少しくらいは身につけられるかも知れない. チャンスがあるのなら米国以外への滞在も是非考えてみるべきである.
ちなみに私の場合も行き先の候補はフランスだけでなく米国にもあった. で, 何故フランスを選んだかといえば…上のようなもっともらしい理由付けも たしかに可能なのだが, 本当のところは「どうせならみんな行かないところ」という 非常に天邪鬼な理由のほうが大きかったかも知れない….
上にも書いたが, 米国に行くことの最大のメリットの一つは 英語が通じることだろう. もちろん, 国際会議で発表するために行くのとは違って, 生活での細々としたことまでいきなり英語で不自由なくコミュニケーションが できる状態で行く人ばかりではないだろう. しかし少なくとも, 相手が何を言ってるのか皆目理解できなくて途方に暮れる状態には ならないで済みそうだ. おまけに(過ごし方にもよるかとは思うが)帰国するまでには かなりの英会話能力の向上が見込めるという利点もある.
だがしかし. どうせ英語は──研究者として生きてゆくのなら──ヒィヒィ言いながらも 付き合ってゆかざるを得ないし, この先の人生で使わざるを得ない場面に遭遇することも多いので, 放っておいてもどうにかこうにか改善してゆくことになるだろう …なるような気がする…なってもらわないと困るっ…!? しかし他の外国語は何かきっかけでもないと習得することはない. それならば, 英語圏以外の国に行くというのは, 実は「英語以外の言語も (程度問題ではあるが)習得できる」という, 一粒で二度美味しい(!?)経験ができる可能性があるのである.
ちなみにフランス語が通じる国は意外と多く ──ヨーロッパ以外でも例えば北アフリカのあたりとか. 有名なところではニューカレドニアもそう──, 将来何かの役に立つ可能性も少なくない. それに英語にはフランス語から入った単語とか言い回しも多く (例えばレゾンデートル: raison d'etreとか), 英語力という意味でも決してマイナスになることはない.
もちろん, 滞在先での特に研究に関する会話などは(相手もネイティブではないが)
必然的に英語になるので,
英会話能力もある程度の向上は見込めるし,
私の場合にも少しくらいは向上したような気がする……おそらくは.
そして何よりも, 仏語で苦労していると, 英語って何て簡単! と
思えるようになることは間違いない.
少なくとも英語でのあれこれに対する敷居は確実に低くなって
(能力はともかくとしても) 自分の英語に自信がつく.
これは是非体験してもらいたい経験──のような気がする.
フランスは「美食の国」と言われているだけのことはあり, 基本的に何を食べても美味しい. 米国は──私の個人的な経験では──もちろん美味しい料理もないではないが, かなりあたりはずれがあるように思う. フランスでは(もちろん程度問題はあるにしても)レストランで食べた料理は どれも基本的に美味しかった──ただし日本食を除いては, だが…. 別にレストランに行かなくても普通にスーパーで売られている食材も 手頃で美味しいものが多い.
当たり前のことだが, 食生活が満たされている, というのは健全な研究滞在生活の上での重要なポイントの一つであろう. その点でもフランス滞在はお勧めである.
フランスと言えばバカンスである. 特に夏のバカンスは誰も彼も少なくとも三週間は取っている. 私は──フランス暮らしそれ自体がある意味, 毎日旅行中と言えなくもないので── 当初は特に積極的にバカンスを取ることは考えていなかったのだが, 周囲のプレッシャーもあり (バカンスはどうするのか, とかかなりしつこく聞かれたりした), 二週間ちょっとのバカンスを取って旅行に出かけたりしたのだった. フランス国内を回っただけだが, 見どころは多く, 充実したバカンスでリフレッシュすることができたのだった.
──もっとも, おそらく (特にヨーロッパのあたりとかなら) どこの国でも二週間程度のバカンスを取るのは普通だとは思うが….
(バカンスの途中立ち寄ったカマンベールチーズの発祥の地, カマンベール村の景色)
たしかフランス…というかEU圏の滞在が三ヵ月以上になる場合には, ビザが必要になるのだった.
このあたりはどこの国に行くにしても同じだと思う. どんなコンタクトの仕方をするかは相手との関係によるだろうし.
(フランスの場合に!?)注意しなければならないことといえば, バカンスの時期は可能なら避けたほうがよいことくらいか. 私の場合, 7月末にメールを送ったら「バカンス中」という自動返信が返ってきて, 相手先からのちゃんとしたメールが返ってくるまで二週間くらいかかったのだった.
私は時間があいたのでついでに手紙と別刷りのいくつかを郵送でも送ったのだが, そこまでする必要があったかどうかは不明…. 一番重要なことは滞在費用の問題で, 相手先が負担しなくてよいことを(その場合には)明示することかと思う.
東京に住んでいるのなら, 直接フランス大使館に出向いて情報収集して様式を入手したりして ビザを基本的に自力で取得することもできるかも知れない. ──が, そうでないのなら フランス大使館のサイトの 情報はいまいちわかりにくく, 問い合わせを送っても全然返事が来ないので (ひょっとすると今は改善されているかも知れない), 適当な旅行代理店のビザセクションに依頼するほうが(金はかかるが)楽である. ちなみに, 私の場合, 二人分の「渡航手続き代行手数料」(ビザ取得の実費は別)で 7万円(税抜き)だった. 決して安くはないが, 何度も大使館に出向いたりせずに済んだし(とはいっても, 一度は出向かなければならないのだが), ま, 仕方ないか…と思っている.
なお, 取得するビザは 「研究者ビザ・研究者の同行家族ビザ (Visa pour scientifique et famille de scientifique)」となる. 必要書類は下記コンベンション・ダキュイの他に 戸籍謄本とその仏語訳(大使館指定業者に依頼しなければならない)とか あれやこれや. 詳しくは最新情報を確認してほしい.
ビザ手続きに関して最も重要なことは, とにかく早め早めに処理を進めるようにすること. 少なくとも三ヵ月くらいは時間を見ておくべき. 特に下のコンベンション・ダキュイは思いのほか時間がかかる可能性がある….
前述のビザの申請に必要なのがこのコンベンション・ダキュイ (受入協約書, とでも訳せばいいのかな)である (私の時より前だとPROTOCOL D'ACCUEIL(プロトコール・ダキュイ)という 書類だったらしい). これは(仏語の書類だし)基本的に受け入れ先の人に依頼して作ってもらうことになる. 先方に依頼するので, 言われるがままにこちらであれこれの書類を準備することになる. 研究内容とか収入証明とか滞在中の保険証書とか…. ちなみに, このへんの書類は全部スキャンしてPDFにしたものをメールでやり取りした. スキャナは必須である. もし手近に使えるスキャナがない場合, こうした手続きを始める前に是非入手しておくべきである.
で, 最後に先方で向こうの県庁(PREFECTURE: プリフェクチュール)に書類を 発送して署名やら捺印やらをもらうことが必要で, これがお役所仕事だからかえらく時間がかかる(らしい). この書類がビザ申請の要なので(あとの書類は基本的にこっちで準備), とにかく早めに動くことを強く勧める. ──ただ, こちらが「早めに」と思っていても先方はそうは考えていない (「まだ時間があるし〜」とか考えている) 可能性がある. (程度問題だが) 時々コンタクトをとって進行状況を確認したほうが よいかも知れない.
ちなみに…日本人の名前のアルファベット表記は(名前にもよるだろうが) 向こうの人に馴染みのないものである. 私の場合, せっかく作られてはるばる郵送されてきたコンベンション・ダキュイの 名前が間違っていた…ということがあり, 改めて作り直す羽目になり──ということは, 再び先方でのお役所処理が必要になったのだった──, 最後は本当にぎりぎりのタイミングになってしまった. このあたりにも念を押して注意したほうがいいだろう.
書類が一通りそろうと, 大使館に行かねばならない. これには予約が必要なのだが, 私の場合, そのあたりも旅行代理店にお願いした. ただし, 思わぬタイミングで大使館が閉まったていたりすることがあるので, その意味でも早め早めの手続きを心がけるようにしたい (私の場合は大使館の改修工事とかで一週間閉まっていたので, その前にするか(コンベンション・ダキュイが間に合わない危険性がある), その後にするか(出発直前になるのでできれば避けたい), えらく悩んだのだった. (結局, 閉まる直前にしたが 無事コンベンション・ダキュイが間に合ったのでよかったのだが)
ビザを無事入手してフランスに着いてやれやれ…と思ったらまだ甘い. 三ヵ月以内に滞在許可証(TITRE DE SEJOUR: ティトル・ドゥ・セジュール)を 取得すること (少なくとも「申請中」の状況に持ち込むこと) が必要なのだった.
基本的に大学とか研究機関の場合, まずは受け入れ先の人に相談するしかない. しかし先方がどのくらいのところまで手続きを手助けしてくれるかは 場所によっていろいろらしい.
必要書類はビザ取得の際に準備したあれこれ (戸籍謄本の仏語訳とか保険証書とか収入証明とか コンベンション・ダキュイとかパスポートとか) と 住居証明(!?──賃貸契約書とか!?) とかとかのコピー. 向こうにはコンビニもなく, そのへんのスーパーの片隅のコピーは性能もいまいちで 値段も高かったりするので, 使う可能性のありそうな書類のコピーは日本にいるうちに多めに作っておいて 持ってゆくことを強く勧める.
私の場合, 私自身に関しては (実はいろいろあったのだが結局のところ) 最後の健康診断と面談に直接出向く以外の手続き (書類のやり取り) は 受け入れ先でやってもらうことができた. …340ユーロの印紙を購入しに県庁に行ったりはしたのだが. (ちなみに印紙はそのへんのTABACにも売ってることは売ってるらしい)
問題は配偶者の滞在許可証で, これに関しては自分たちでなんとかするしかないようで
(受け入れ先によっては家族の分も含めてある程度面倒見てもらえたりするらしい),
必要書類を揃えて県庁に出向くしかなかったのだった.
我々がお世話になったニースにあるアルプ・マリティム県の県庁の場合,
入ったところに英語のできる係員がいたものの, 基本的には英語は通じない
──と考えておいてほうがよい.
(県庁に行くことになった場合には) 可能であれば,
フランス語が話せる誰かに付いてきてもらうことを勧める…が,
(程度問題だが) 片言のフランス語でも何とかならないこともないようだ
(たとえば我々の場合. しどろもどろのフランス語で何とかした──
以下にあるように非常な苦労が必要ではあったのだが).
何よりも,
あっさりと手続きが進むかどうかは窓口でどの担当に当たるかによる.
我々の場合でも,
一度目は「フランス語もできないのに滞在許可証だと〜」と言われて
(何故だ!? 研究者ビザなのにっ!!)
追い返された感じだったが,
二度目は別の人に当たったおかげで
(…まあ, 持参した書類のほとんど全ての仏語訳を
準備していったこともあるが) 実にあっさりと次の段階に進めた
──面談 (Rendez-vous: ランデヴ) の予約が取れた──のだった.
ただし, 苦労して現地で新たに準備した仏語訳の書類のうち,
最終的に引き取ってもらったのは保険証書くらいだった.
しかしまあ, 渡航後の手続きで楽をしようと思うのなら,
日本にいるうちにいくつかの重要そうな書類の仏語訳
(戸籍謄本とかと同様の指定業者による翻訳) は準備してゆくとよいのかも知れない
──もっとも, 無駄になるかも知れないことを覚悟する必要があるが.
実際には, 他にもあっさりとは書けないいろんな苦労
(いろんなネタ!?) があったのだが, 本筋ではないのでここでは省略する.
まあ, 何れにしても,
何が必要とかいうのが窓口の担当者によって微妙に異なったりする程度のことは
普通のことのようである….
ちなみに, 現地の人にとっても県庁に出向くのはけっこう苦痛らしい. とにかく, この件に関しては, 積極的に, しかし気長に, しぶとくやるしかない. 無事滞在許可証を取得できたときには, あなたのフランスでの生活能力がワンランクアップしていることは間違いない….
滞在許可証を持つことなく, またその申請中でもなく, 三ヵ月を過ぎて (ビザの有効期限が切れて) しまうと 不法滞在状態になってしまう. だからとにかく取らないといけないのは確かなのだが──.
実は──私の場合, 使う機会は一度もなかったのだった…. 帰国の際のパスポートチェックの際にあえて一緒に提出せずにいて 何か言われるかとも思ったが, それすらなかった….
銀行口座を開く際とか部屋を借りる際に必要になるとかならないとかいう話も あるらしいのだが, 私の場合はどちらも受け入れ先の人と一緒に手続きをしたおかげで問題はなかった. (ちなみに, 銀行口座を開くには滞在許可証が必要という話もあれば, 滞在許可証の取得には銀行口座が必要という話もある…)
滞在中に一時帰国をして再入国する場合にはおそらく必要なのだろうし, 現地でアルバイトのようなことをするとか, 事故や事件に巻き込まれたりすれば取得していないといろいろ問題に なることもあるのだろうとは思うのだが, 苦労した割にはありがたみがなかったのだった.
たぶん今の状況で見ても何が何やら…だろうが,
現地で滞在許可証の件で悩んでいたときに見ていたサイト(仏語):
http://www.cote-azur.cnrs.fr/Guide/NonPermanentsGuide/GuideScientifiquesEtrangersAccueil/;view
様式いろいろはこのへんを見たりしたような:
http://www.cote-azur.cnrs.fr/Guide/ImprimesEtFormulairesGuide/;view
いわゆる旅行ガイドにあまり書いてなさそうなことをいくつか.
「郷に入れば郷に従え」という言葉もあるように, 基本的には現地で現地のものを使えばいいのだが….
食料品については好みの問題で, 現地でも日本食を食べたいのなら カツオパックとか塩昆布とかの保存のきくものを 適宜持ってゆくとよいかと思う. 我々の場合, 後で知人から塩昆布を送ってもらったのだが, これは重宝した. そのままでもいいし, ツナ缶 (これはそのへんで普通に売っている) と 一緒に炊き込みご飯にもできるし, 浅漬け…もどき(!?)を作るのにも使えたし. 調味料は──醤油くらいは現地でも (高いものの) 入手できるが, 場合によっては味噌・醤油・味醂あたりは持ってゆくほうがいいかも知れない.
調理用具は…包丁とまな板と砥石とピーラーは (料理をする予定で可能であれば) 持って行ったほうがよいかも知れない. あと, 忘れてはいけないものとして箸 (場合によっては割り箸でもいい) は必須.
嗜好品というか, いわゆる日本茶──烏龍茶もそうだが──は現地での入手は困難. いわゆる緑茶っぽいもの (the vert) のティーバッグなんかはあることはあるが, 日本のものとは別物と思ったほうがよい. コーヒーとか紅茶以外に日本茶も飲みたいのなら, 持ってゆくほうがよい. あと麦茶パックも夏場にけっこう重宝した. ミネラルウォータもスーパーで買えばそれほど高くはないが, やはり夏の麦茶は捨てがたい…. (ただし, 水の違いもあって (見た目は) 濁ってしまったりしていたが)
日本から電化製品を持ってゆく場合には──といっても おそらくノートPCくらいかと思うが──コンセントの変換プラグを忘れないこと. 場合によっては変圧器も必要.
今回, 持参しなかったものの持ってゆけば良かったと思ったものの一つはラップ. 向こうのラップは切れにくいし使いにくい. そんなにほいほい使うものではないと思うが, 余裕があるようならサイズ違いを二三本持ってゆくとよいかも知れない. あと, シャワーで身体を洗うのに使う, いわゆる健康タオル. 向こうには売っていないので, 普段使っているのなら持ってゆくことをお勧めする.
スーパーは日曜日は休みか…日曜の午後は少なくとも休みのことが多い.
夜も営業時間は7時とか8時とかまでのことが多く (もちろん店にもよる),
自動販売機も駅構内くらいにしかないので,
日本でのように夜の10時くらいに買い物をすることは基本的にできない.
あと, 祝日 (5/1とか7/14とか12/25とか) は多くの店が休業になる.
慣れるとそうでもないのだが,
いつでも買い物ができる日本の感覚からすると当初は戸惑う.
ちなみにフランスでは24時間営業のコンビニなんてものは存在しない….
(実はパリにはあるとかないとかいう話を聞いたことがあるが)
スーパーでの野菜は多くの場合, 量り売りになっている. ビニール袋に購入分を入れて野菜売り場の近くの計測器に乗せて, 該当するボタンを押せば値段のバーコードシールが出てくるので, それをビニールに貼ってレジの所で他の品物と一緒に会計をする. (もちろん, じゃがいも1kgパック0.99ユーロとかとか パプリカ3個パック1ユーロとかいうのもあるが)
スーパーのレジでは, 自分で品物をベルトコンベヤの上に並べて, 会計が済んだ品物は自分で持参した袋とかにその場で入れてゆく. ほとんどの場合, 無料のレジ袋などというものは存在しないので, 何か持参するかあるいは (レジの近くにある) 有料の袋を 一緒に購入してそれに品物を詰めて持ち帰ることになる. ちなみに, 購入した袋のバーコードはその場で消してくれるので, 次回以降はその袋を持参すればよい. このスーパーの袋は丈夫でけっこう便利だった.
なかには, まさにその会計処理の途中で, 何か忘れていたのか品物を取りに行く人もいたりするのだが, 怒ってはいけない. レジ係の人もほかの客も悠然と待っている….
決済はクレジットカードが楽. ほとんどの場合, サインではなく暗証番号での決済になるので 必ず確認して覚えて行くことを勧める. フランスでカードが使えない場面というのは (屋台とかはともかく) ほとんどない. 逆に, 現金でも50ユーロ紙幣になると微妙に使いにくい. …なので, ATMで引き出して50ユーロが出てきてしまった場合は スーパーで10ユーロ程度の買い物をして崩したりしていた.
私が滞在していた時期 (1ユーロ=110円前後) の感じでは, 食料品等は日本よりも割安. ビールやワインも当然安い (蒸留酒はそれほど安くはないが). スーパーで買う場合, ワインは安いものだと一本2ユーロくらいから (上を見ればきりがないが) . ビールも250ccの瓶が六本パックで3〜4ユーロくらいとか (しかも日本では高価なベルギービール!!).
野菜類も普通にフランスの人が食べているものだと日本に比べるとかなり安い. パプリカとかアンディーブとか白アスパラガスとか, 日本では高いものの場合に特にそう感じられる. 野菜以外でも ステーキ肉が200gくらいで一枚2ユーロくらいから──ただし, 割安なものは味はともかくナイフでなかなか切れずに苦労する硬さだが──あるし, 海産物でもムール貝が1kgあたり5ユーロくらいだったりする. ちなみにこのムール貝を塩入りバターと白ワイン (安物で十分) で ワイン蒸しにすると非常に旨い. また, お米にしても1kgあたり1ユーロ前後なので割安….
逆に高いのはいわゆる日本食関係. 米はともかく, 白菜とかもやしとかは普通には売っていないし, 売っていても高い….
車が必要かどうかは通勤経路とか日常の行動範囲によるかとは思う. ただ, パリくらいの都会で暮らすのならともかく, そうでない場合には車があると各段に便利なのは確か. また, バカンスの場合でも車があるほうが計画の自由度が広がる. 一年未満の滞在なら国際運転免許証を 出発のタイミングに合わせて取得すればよいので, 可能であればせめてそれくらいは持ってゆくことをお勧めしたい. (それ以上の場合には滞在許可証取得後に免許証の切り替えが必要…らしい)
ちなみに, 私は
PEUGEOT OPEN EUROPE
で車を借りた.
ここなら最大355日のレンタルが可能──とはいっても,
まずは最大175日で, 途中で延長手続きが必要になるのだが.
ただ, 費用は年間ざっと8000ユーロほどもかかってしまった….
高くついてしまったのは,
申し込みが直前になってしまったせいもあり,
想定していたよりも高いグレードの車種しかなかったことによる.
──もっとも, 安いグレードでも6000ユーロくらいはしてしまうのだが.
費用的なことからすれば,
適当な中古車を購入して帰国時に売るほうがずっと安くつくらしい.
しかしながら, 購入時の手続きや販売時の手続きとか手間を考えると
これは悪くない選択だったと思う.
私の場合には (たまたま!?なのかプランと期間のせいか) 新車だったせいか,
一年間全くトラブルもなく快適に使うことができたし,
最後に荷物を空港まで運んでそこでそのまま車を返却して帰国する,
ということもできたし.
なお, フランスでは乗用車でもディーゼル車の割合が多い. GASOILは (字面から勘違いしそうだが) ガソリンでなく ディーゼル燃料なので間違えないこと. (ちなみにガソリンはESSENCEである)
実は意外と気になる人も多いかと思うので….
私の場合, 通勤は車で昼食は職場のカフェテリアでの定食だった. この定食, 一応は前菜・主菜・デザートとちゃんとあって, ステーキだのタルトだのを毎日食べていたのだった. ちなみに, フランスでは昼食の時間は少なくとも一時間はとって, 食後にカフェを飲みながらあれこれとお話をするのが通常.
こんな生活ではさすがに不安だったので, 週に二三度, 近くの海岸を10kmくらい走っていた. 概ね月に100kmくらい走っていたことになるかと思う. そのおかげで──というかそれでも, というか── 一年の滞在で体重の増減はやや減, というあたりを保つことができたのだった. そういう意味では自分に合ったジョギングなりウォーキングの靴は 持ってゆくほうがよいかと思う.
病気が気になる場合, 使う可能性のありそうな薬は持ってゆくほうがいいのは普通の旅行と同じ. 私の経験からは「冷えピタ」とか「熱さまシート」とかの類が (現地では見かけないし) 意外と役に立った.
配偶者の腰痛で一度だけ病院に行ったことがあるのだが, まずは保険会社に連絡をとって (費用請求等の) 手続きを確認した後 (病院についての情報ももらえる場合があるようである), 近くの病院の救急外来に直接出向いた ──電話で病状の説明とか診察の予約なんてできないし. 診察後, 医師から必要な薬の説明を受けて 自宅近くの薬局で薬を買って服用したら無事治ったようである.
どのくらいのレベルならどのくらい何とかなるか, とか. (ただし, 個人の実感なのであくまで参考)
上のほうにも書いたが, いわゆる研究活動のための会話は英語でなんとかなる. ただし, 研究機関でもそれ以外の日常的な会話は当然フランス語ベースなので, 昼食時に会話に加わったりするためにも仏語能力は必要 (もちろん, 昼食時でも折を見て英語で話題を説明してくれたりはするが, 常にというわけではない. 自分から会話に加わろうと思えば何が話されているのかをなんとかして知るくらいの 積極性は必要).
買い物は…スーパーとかなら挨拶程度で あとはレジで表示された金額を支払うだけなので, これもそんなに仏語を使うことはない. ただし, 商品名やその説明は当然全部フランス語なので, ある程度の知識や語彙がないとそういう意味では苦労する. また, 市場 (マルシェ) での買い物には必然的に会話が必要になる. 英語を話す人もないではないが…やはりある程度のフランス語は必要.
都会とか観光地では英語が通じる所も少なくない. 特にパリの店とかレストランとかだとたぶん通じる…ような感じ. ただし, 地方都市だと (場所にもよるが) 英語が全く通じない可能性もある. そんな場合でも片言のフランス語があれば問題なく 食べたり買ったり泊まったりできる.
もっとも, 必要性とは関係なく, せっかく滞在しているのに向こうの人と会話しないのはもったいない. お店やレストランやホテルでも, 英語で話すよりもフランス語で話すほうが好感が持たれる (ようである). 片言程度でも会話できれば生活が充実するのは確かである.
(どんな言語の習得でも同じだと思うが) 優先度としては「挨拶 (基本パターン会話)」「数字」「日常会話」かな. 特に数字に関しては, 某都知事が, フランスは高名な数学者を多く排出してることも知らないのか 「フランス語は数が数えられない」とか言ったりしていたが, 少しやっかいではある (当たり前だがちゃんとシステマティックに数は数えられる──癖があるだけで). あと, 意外と(!?)大切なのがアルファベ(alphabet)の読み方. 英語とはかなり異なる(例えばgは「ジェ」, jは「ジ」 (カタカナ表記はあくまで参考)で, 知らないと逆に聞こえてしまう…). アナウンス等で耳にすることも多いし, 自分の名前の綴りを誰かに伝える場合にも必要なので 忘れずにマスターしておくべきだろう.
私の場合, はるかかなた昔に勉強した第二外国語が仏語だった──のだが, だからといってそれで話せたわけではない. その時に習ったことで覚えていたことといえば, 若干の挨拶, 若干の単語, 若干の活用, 若干の数字──くらい. あとは「名詞を覚えるときには不定冠詞を付けて覚えるべき」 (男性名詞と女性名詞の区別がつくから) ──ということで, これは後日の学習の際に少し役に立ったかも知れない.
まあ, それでもせっかくフランス語を人より長く──というのは, 通年必修科目 (当時はそういうのが普通) だというのに単位を落として 再履修したりしたので──やったので, 何度か学会がフランスであったりした時とかに NHKラジオフランス語講座を聞いたりして復習はしていた.
今回の件を考えるようになってから, ある程度真面目にそのラジオフランス語講座を聞いて勉強して, その「入門編」のレベルなら文法的にはクリアしたかな ──でも語彙は圧倒的に不足している──という状態でフランスに出発したのだった.
さて. おそらく, 通常の日常生活 (買い物とか旅行とか) をフランス語でこなす程度なら, ゼロからのスタートだとしても, ラジオフランス語講座入門編あたりをタイマー録音したりして (今はウェブでも聞けるらしい) 一年 (二期) くらい真面目に勉強して (ちゃんと復習もして) …というくらいでやっていけるかとは思う. もちろん, 時間に余裕があるのならフランス語会話学校に 通ったりするほうがいいのかも知れないが. (念のため. 私は別にNHKの回し者というわけではない. ただ, テキスト代を考慮してもコストパフォーマンスという面では 悪くないのは確かだと思う)
ただし, NHKのラジオ講座一年分くらいでは文法を全部網羅しきれないので, 文法に関する適当な参考書を用意して詳細については そちらでフォローするとかしたほうがよい.
まず, 電子辞書は必須. 紙の辞書もいいのだが, 特に, 動詞の活用 ──フランス語の動詞の活用は英語とは比較にならないくらい多彩──を 調べるのは電子辞書のほうが圧倒的に楽. それに, 特に最初のうちは スーパーでの買い物ですら何が書いてあるかわからなくてとまどうことも多く, 辞書を引いて確認しながらの買い物になったりもするので 軽くて使いやすいものがよい. もし配偶者と二人で行くとかなら辞書は一人一台にすることを勧める. 万が一故障してしまったときのバックアップにもなるし…. 現地では日本語の使える──どころか, いわゆる電子辞書はほとんど見かけない. もしもの場合には現地で紙の (小型の) 英仏・仏英の辞書を購入することになる. (これはこれでそこそこ使える)
語彙を増やすには, 会話をするか本を読むか, だが…. 子供向けの読み物を辞書を引きながら読んだりすれば 少しはフランス語に慣れて語彙が身につくような気がする. また, フランスでは日本の漫画が大人気 (Mangaとして書店にコーナーもある) なので, よく知っている作品の仏語版を購入して読んでみるのもいいかも知れない. もちろん, 現地でいろいろと交流関係ができて そこでフランス語会話経験ができればいちばんいいのだが, そこまで持ち込むのは (状況にもよるが) けっこう大変かも知れない. ちなみに私の場合は, みんな車通勤だったのもあって仕事帰りに一杯, というわけにもいかなかったのだった.
以上, 自分のフランス滞在経験で参考になるかも知れないと思えることを簡単に書いてみた. フランスに研究滞在する上で一番の難点は手続きの煩雑さ (とはいっても, これは他の国でも似たようなものじゃないかとも思うが) と フランス語の問題かと思う. しかしどちらの問題もやってみればなんとかなるものである. この情報 (というほどのものでもないが) が何かの役に立つことがあれば幸いである.
(週末のジュアン・レパンのビーチ. まだ6月頭)